サイエンスの香りがする日記

実体験や最新の科学技術をコミカルに綴ります。

優秀なメンターに指導してもらうと優秀になれるのだろうか?

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効率的な独学の技術を身に付けるとコロナ禍においても黙々と成長できる。

 

そうは言っても、「メンターのような人に指導して欲しい」、「並走してくれる存在が欲しい」と思っている人も多いのではないか。

 

僕はそうだ。

 

過去の研究によれば、メンターの存在が弟子の将来の成果に大きく影響を及ぼす事が統計解析で示されている1,2)

 

アリストテレスのメンターはプラトンで、プラトンのメンターはソクラテスだ。

 

彼ら賢人たちもメンターがいなければ大成しなかったかもしれない。

 

鬼滅の刃の炭治郎も鱗滝さんがいなければ、判断の遅いただの炭売りの少年で終わっていたかもしれない。

 

では、どんなメンターが弟子を成長させてくれるのだろうか。

 

大きな成果を挙げているメンターほど、優秀な弟子を育てるのだろうか。

 

研究者を対象にして少し想像してみよう。

 

iPS細胞の開発でノーベル賞を受賞した山中教授が助教のポジションを公募した場合を考えてみる。

 

おそらく世界中から応募がある。

 

例えば、下記の人達が応募したとしよう。

 

和文論文にしか投稿したことの無い日本人の菅くん。

ポスドクになりたてで実績の無いアメリカ人のバイデンくん。

・世界でもっとも権威ある学術雑誌Natureに論文を載せたことのあるニュージーランド人のアーダーンさん。

 (実在の人物や能力とは一切関係ありません。)

 

良い成果を出して欲しい山中教授は実績を見てアーダーンさんを採用するはずだ。

 

そして5年後。

 

アーダーン助教は期待通りの成果を出し、国際学会で著名な賞を受賞。

 

その結果を見て、「あぁ、やっぱり優秀な研究者がメンターとして指導すると、弟子も大成するんですね」という話になったら、

 

ちょ、待てよ!

 

と言いたくなるだろう。

 

優秀な研究者のところには優秀な人材が集まってくる。

 

メンターの指導によって成果が出たのか、元々優秀な人材だったから成果が出たのか。これらの要素を分けて分析するのは簡単ではないのだ。

 

この問題への解決策を見出したのが、2020年に米国アカデミー紀要に掲載された論文である3)

 

この論文では、1960年から2017年の間に総計100万本以上の論文を執筆した3万7千人以上のメンターとその弟子のデータを解析している。

 

まず、メンターとその弟子のペアをグループ分けする。このグループ分けが秀逸なので例を挙げて図解しよう。

 

例えばメンターとして龍王院さんと山田さんがいたとする。1990年の時点で、彼らは同等の業績を出していた。ここでは同等の業績のメンターには似た才能を持った弟子が集まるという仮定を置く。

 

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龍王院さんと山田さんを分ける基準は何か。

 

龍王院さんは1990年以降に次々と大きな成果を挙げ、2015年には世界的な賞を受賞するに至った。鬼滅の刃で言えば柱クラスの研究者になったのだ。

 

一方で、山田さんはそこまでの成果は出せず、柱クラスにはなれなかった。

 

ここでのポイントは、弟子がメンターを選んだ時点では、将来にメンターが柱クラスになれるかは分からないという点である。

 

このような基準でグループ分けして解析することで、「優秀なメンターの所に優秀な人材が集まる」という要素を取り除きつつ、「優秀なメンターの弟子は大きな成果を挙げるかどうか」を解明しようとしたのだ。
 

さて、龍王院さんと山田さんではどちらの弟子達が大成していただろうか。

 

結果は期待通り龍王院さんの弟子。

 

すなわち将来にメンターが柱クラスになる場合の方が弟子は大きな成果を挙げていた。やはり柱クラスになるメンターからは良質なフィードバックが得られ、優秀な弟子が育つようだ。

 

もう一つ面白い結果が出ている。メンターの専門領域とは別の領域に進んだ弟子の方が沢山の成果を出していたのだ。守破離の重要性が実証されたかのようなデータである。

 

優秀なメンターというのは、自分の専門領域に直接関わる技術だけでなく、研究者としての基盤となる本質的な能力を高めてくれるのだろう。

 

メンターの真髄とはそういった部分にあるのかもしれない。



The value of an education is not the learning of many facts but the training of the mind to think something that cannot be learned from textbooks. 

 

教育の価値とは、多くの事実を学ぶことではなく、教科書では学べないことを考える知性を鍛えることにある。



Albert Einstein

 

アルベルト・アインシュタイン




【参考文献】

  1. Malmgren, R. et al., The role of mentorship in protégé performance. Nature 465, 622–626 (2010)
  2. Liénard, J.F. et al. Intellectual synthesis in mentorship determines success in academic careers. Nat. Commun. 9, 4840 (2018)
  3. Ma Y. et al., Mentorship and protégé success in STEM fields, PNAS 17(25), 14077-14083 (2020)

 

本記事は下記クラブのご協力を得ています。特に本文中の図はふろむださんにご作成頂きました。

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