1)
「意外と知られていないんですけど、、、、
甘いものを食べると太るんですよ。」
進次郎さんがこんな事を言ったら、当たり前でしょ!!と皆さん思いますよね。
ダイエットのために大好きな甘いものを我慢している人も多いと思います。
清涼飲料水やアイスなんかは一口も食べないぞ!と鉄の意志で欲望を抑えていることでしょう。
さて、ここで皆さんに確認したいことがあります。
そんな辛いダイエットをしているぐらいですから、甘いものを食べると“なぜ”太るのかを知らない人なんて、、、
2)
恥ずかしながら告白します。僕はなぜ太るのか分かっていませんでした。
そして実は、食べ物が身体の中でどう利用されているかを研究する栄養学においてもきちんとは分かっていなかったのです。
一口に甘い食べ物と言っても、甘く感じる成分は色々あります。
有名なのはグルコースですね。一方でフルクトースはあまり知られていないかもしれません。
食品の原材料欄に”果糖ブドウ糖液糖”や”異性化糖”という文字を見たことがあるでしょうか。清涼飲料水、菓子パン、アイスなどに入っています。
主にトウモロコシから作られたもので、フルクトースという分子が主な成分です。食べ物を甘くしたいときに頻繁に使われています。
このフルクトースと肥満の関係が社会問題になっているのです。
WHOの調べによれば、1975年から肥満の人の数は世界中で3倍になっており、2016年の時点で6億人を上回っています3)。Covid-19と並んでもう一つのパンデミックとも言われています4)。
一方でフルクトースはここ200年でその消費量が100倍に増えており、肥満の増加はフルクトースのせいではないか?と疑いをかけられているわけです5)。
そんなわけでフルクトースと肥満の関係を調べた研究は無数にあります6,7)。それに対抗して飲料メーカはフルクトースは体に悪いものじゃないぞ!と主張したりしています8)。
ただ、これまでの研究ではいまいち因果関係が分からないんですね。
フルクトースを大量に摂取している人はたしかに太っています。ただ、そういう人はたいてい食事の量も多いわけです。肥満の原因を見つけるのは簡単ではありません。
そして、フルクトースが身体の中でどう処理されているかの分子生物学的検討も足りていませんでした。
そんな中、近年になってフルクトースに関する大きな研究成果が出てきました。
例えば、フルクトースは肝臓で処理されているというのが一般常識でした。でも実はそれは間違っていて、小腸で処理されているという教科書を書き換える発見が報告されています9-11)。
そして本年2021年にフルクトースと肥満の関係を示す面白い論文が出ました12,13)。
マウスを使った実験です。ヒトを対象にすると食生活などを完全にはコントロールできませんからね。
論文では、フルクトースを与えるマウスのグループと与えないグループを準備し、それらに全く同じカロリーの食事をさせました。
結果は明瞭で、フルクトースを与えたマウスの方が体重の増加が大きかったのです。そして興味深いのはそのメカニズムです。
研究者たちはマウスの小腸をじっくり調べてみました。ここで小腸に着目できたのは上で紹介した論文があったからでしょう。
小腸には絨毛(じゅうもう)と呼ばれる無数の突起物があり(図1)、栄養を吸収する役割を持っています。
図1 小腸に存在する絨毛
フルクトースを与えたマウスではこの絨毛がなんと25〜40%も伸びていたのです。
絨毛が伸びることでその表面積が大きくなり、栄養をたくさん吸収するようになり、そして太ったというわけなのです。
フルクトースが脂肪に変換されるというメカニズムではなく、栄養吸収を促進するという新しいメカニズムが示されたのです。
あくまでマウスの実験ですから、ヒトでも同じ現象が起きているかはまだわかりません。
そうは言っても、甘いものを食べるときは、自分のお腹の絨毛がにょきにょきと伸びていることを想像すると面白いかもしれません。
念のため注意しておくと、薄くなった頭に清涼飲料水をかけるのはやめましょう。そちらの毛は伸びませんよ。
【参考文献】
- 小泉進次郎 週刊文春オンライン (11月25日アクセス:https://bunshun.jp/articles/-/45117)
- 東京卍リベンジャーズ 和久井健
- Obesity and overweight. World Health Organization (11月26日アクセス:https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight)
- Obesity: another ongoing pandemic. Lancet Gastroenterol Hepatol. 6(6):411 (2021)
- Bray G.A. et al., Consumption of high-fructose corn syrup in beverages may play a role in the epidemic of obesity. Am J Clin Nutr 79(4):537-543 (2004)
- van Buul V.J. et al., Misconceptions about fructose-containing sugars and their role in the obesity epidemic. Nutr Res Rev 27(1) 119-130 (2014)
- Stanhope K.L. et al., Sugar consumption, metabolic disease and obesity: The state of the controversy. Crit Rev Clin Lab Sci 53(1), 52-67 (2016)
- 異性化糖のすべて。CocaCola(11月25日アクセス:https://www.cocacola.co.jp/article/caloric-sweetener_04)
- Jang C. et al., The small intestine converts dietary fructose into glucose and organic acids. Cell Metab 27(2), 351-361.e3 (2018)
- Hellerstein, M. Surprising findings in a ‘well-understood’ nutrient-assimilation pathway. Nat Metab 2, 561–563 (2020)
- Jang, C. et al. The small intestine shields the liver from fructose-induced steatosis. Nat Metab 2, 586–593 (2020)
- Taylor, S. et al. Dietary fructose improves intestinal cell survival and nutrient absorption. Nature 597, 263–267 (2021)
- Nunes P.M. and Anastasiou D. Fructose in the diet expands the surface of the gut and promotes nutrient absorption. Nature 597(7875), 180-182 (2021)
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