サイエンスの香りがする日記

実体験や最新の科学技術をコミカルに綴ります。

ダーウィンの進化論のアナロジーで高説を垂れる人が言ってることはどこまで正しいか。

ダーウィンの進化論は間違って捉えられやすい割に、アナロジーとして使いやすいので、誤用しがちです。また最新の研究で、進化論自体もアップデートされてきています。


間違った理解で高説を垂れると、痛い人になってしまいます。皆さんも変な誤用をしないように、勘違いを修正していきましょう。


まずは進化に関する有名な例を紹介しましょう。


19世紀イギリスのマンチェスターに、淡色の翅(はね)を持つオオシモフリエダシャクというガがいました。ある時、暗色の翅の個体が登場し、その数が増えていき、1900年頃にはほとんどの個体が暗色の翅を持つようになったのです。


ところがその後、再び暗色の個体は減っていき、2000年頃には淡色の個体だらけの状態に戻りました。


さて、この期間に何があったのか。


菌類の一種である地衣類が着生して白っぽくなった樹木の幹では、淡色の翅を持つ個体は捕食者に見つかりづらかったんですね。ところが、産業革命が起きたわけです。


すると、大気汚染が起きて、地衣類が死んじゃったもんで、黒ずんだ樹皮が剥き出しになったのです。むしろ暗色の翅の個体が有利になるというゲームチェンジです。それで、暗色の個体が増えることになりました。


その状態は長く続かず、大気汚染が緩和されてきて、再び淡色の個体に有利な環境がやってきたわけです。

 

環境変化と進化について考えさせられる好例ですね。ただ、こういう進化の分かりやすい例を聞くと、色んなアナロジーが思い付いちゃいます。でも、すぐにそういうのに飛びつくと、痛い目を見るわけです。

 

①賢い者ではなく、変化できる者が生き残る。

はい、定番の誤用です。SNS上でも昔話題になりましたかね。


そもそも進化というのは、世代を重ねていく過程で、集団の特性が変化していくことを意味しています。オオシモフリエダシャクも、ある個体が淡色から暗色になって、ふたたび淡色になったなんて話ではありません。


時代に合わせて、スキルや仕事を変えようみたいな文脈で進化論を使う人がいますが、ダーウィンさんが全力で殴りかかるレベルです。気をつけましょう。

 

②環境に適するように進化していく。

環境変化が進化の方向を決めている、というエビデンスは今の所見つかっていません。産業革命が起きて、暗色の個体が生き残りやすくなったのは事実ですが、暗色になるような遺伝子変異が入りやすくなったわけではありません。


もう少し細かい話をすると、遺伝子変異の入る場所や入り方に元々偏りはありますが、その偏りは環境変化によって変動していなそう、という話です。


事業環境の変化に合わせて、自分自身も変化しないと生き残れないぞ!みたいなアドバイスを、進化論にのっけて話すのは、①の誤用も合わせて、ダーウィンさんがドロップキックするレベルです。気をつけましょう。

 

③激動の時代こそ成長できる。

上の①と②の誤解を掛け合わせると、環境変化が激しい世界では、それに合わせて進化していくことになり、とても成長できそうです。


実はこれ、一面では正しいです。


生物に強いストレスがかかると、遺伝子に突然変異が入りやすくなることが実験的に確認されています。激動の時代はストレスも多いでしょうから、突然変異がたくさん入り、進化のスピードは上がっていくでしょう。


ただし、それは必ずしも環境に適した進化とは限りませんし、進化していくのはあなたよりずっと後の世代です。


この観点を持ちつつ、①②の誤用を避けて、


「これからは激動の時代だから、君の孫の孫の孫はちょっとは優秀になるかもね」


これくらいであれば、ダーウィンさんも見逃してくれるかもしれません。

 

 

さて、ここまで進化論の誤用について見てきました。ただ、進化論のアナロジーを適切に使おうとすると、優しさが全然ないですね。環境変化に適した人が偶然生き残るだけですし、進化していくのは今困っている僕らではなく、ずっと先の世代です。

 

そう考えると、「変化すれば生き残れる」「環境変化に合わせて成長する」という風にアレンジする人は、素のままの進化論の厳しさに気づいた上で、あえて誤用することで僕らに努力を促そうとしているのかもしれません。

 

【参考文献】

河田雅圭、ダーウィンの進化論はどこまで正しいか?進化の仕組みを基礎から学ぶ

 

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肥満と美味しい食事の不都合な関係

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これまで僕は周りに太っていると人がいると、「食べ過ぎを我慢できない自制心の無い人たちだな」と見下してきました。もちろん、自分のお腹がどうなっているかを見下ろすことはしません。


ただ「肥満の科学」を読んでみて、肥満の原因を単純な食べ過ぎと捉えるのは、あまりに解像度が低いなと。最新の研究によって、食事がどのように肥満に繋がるかのメカニズムが分かってきました。


さて本題に入る前に、オーストラリアにいる面白いカエルの話をしましょう。


このカエルはなんと水や食事を摂らずに5年も生きられるのです。


大量の水を膀胱に溜め込むことができるからです。さらに足に脂肪を溜め込んで、そこから栄養を少しずつ取り出して生きていきます。


水や食事を確保できない状況になっても生き延びられるよう、水分と脂肪を体内に蓄えておく能力を持っているのです。


人間にとっての肥満も同様で、僕らの膨らんだお腹はカエルの足と同じく、サバイバルのための備蓄なわけです。


だからと言って人間がいつでも栄養を体内に備蓄するかと言えばそうではありません。備蓄の開始を合図するサバイバルスイッチが体内にあるのです。


そのスイッチがオンになると、代謝が低下し、食べたものをエネルギーには変えず、脂肪として蓄積するようになります。さらには、空腹感を高めて食べる量を増やそうとするのです。そしてまた食べてしまうことで、このフィードバック回路がぐるぐる回り、まさに備蓄体制に入るわけです。


では何がサバイバルスイッチをオンにするのか。それが次に気になりますよね。


最近の研究で分かってきたことは、サバイバルスイッチをオンにする主要因が“果糖”’だということです。


果物にたくさん含まれる糖分であるため、その名が付けられました。


自然界では、暑い夏が過ぎ、秋になって果糖をたっぷりと含んだ果物を動物たちは食べます。その果糖がサバイバルスイッチをオンにすることで、厳しい冬を冬眠をしてやり過ごそうと体内に備蓄を始めます。


ところがです。禁断の果実を食べた僕たち人間は、年中いつでも果糖を摂れる世界を作ってしまいました。工場で人工的に果糖を製造し、甘味を増強したジュースやお菓子を大量生産するようになったのです。


僕らは冬眠の予定も無いのに、年中果糖を摂りながらサバイバルスイッチを連打していたわけです。


さらに近年の研究によれば、果糖さえ摂取しなければサバイバルスイッチがオンにならないという訳ではありません。旨み成分と塩を摂り過ぎても、サバイバルスイッチを押してしまうのです。


僕らが食事を美味しいと感じる時、甘味、旨味、塩味を含んでいるでしょう。それら全て、摂取量が多すぎるとサバイバルスイッチをオンにしてしまうのです。


むしろそのように僕らは進化してきたと認識する方が正しいでしょう。食料の獲得が不安定だった時代、積極的に脂肪を増やすインセンティブがありました。それが現代にうまくフィットしていません。

 

アメリカでフィットネスの教祖と呼ばれるジャック・ラーレンはこう言いました。


「美味しかったら吐き出せ。」


サバイバルスイッチの知識を得た後だと、この一言が言い得て妙だと納得せざるを得ません。


どうせ備蓄するなら脂肪よりお金の方が良かったな。そう思いながらも、果糖の楽園となった現代で、太らないでいることはお金持ちになるより難しいことなのかもしれません。

 

【参考文献】

 リチャード•J•ジョンソン 肥満の科学:ヒトはなぜ太るのか

(肥満になるメカニズムだけでなく、肥満をなるべく防ぐ食事法も載っています。食事を吐き出さず痩せる方法を知りたい人にはオススメです。)

 

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怪しい論文に引っかかるのを防ぐためにできる、たった一つの秀逸な方法。

科学技術に関する論文は、事実を積み重ねていくものです。なので、当然ながらノンフィクションなはず。ところが、内情をよくよく見てみると、統計処理を偽ったり、そもそもデータが作り物だったりして、結論がフィクションになってる場合がしばしばあるのです。まぁ科学のダークサイドですね。


こういった科学の内情がScience Fictionsでは詳しく書かれています。


フィクション論文がブログやYouTubeで紹介されると、僕ら一般人の視界にも入ってきます。紹介する側がさらに結論を盛っちゃったりすると、真実から遠く離れた世界に行ってしまいます。


フィクションの世界で生きていくのも悪くないかもしれませんが、僕なんかはやっぱり真偽の怪しい情報にはひっかかりたくないなと。


ではどうすれば怪しい情報を選別できるでしょうか。何か良い方法はないものでしょうか。


一つの方法は、一次情報である論文を精読して、内容の真偽をきちんと確認することでしょう。


でも、これってよくよく考えると結構無理筋なんですよ。


ちょっと前に科学のダークサイドに堕ちた日本人がいましたね。オボちゃんこと小保方晴子さんです。STAP細胞でだいぶ話題になりました。


非常に簡単な方法で万能細胞を作れるという画期的な論文を発表しましたが、再現性が確認されず、論文の画像もオボちゃんのフォースで加工されたものでした。


でも一度は有名な論文誌に掲載されてるんですよ。つまり査読を通ってるわけです。一流の査読者でも見破れないのに、僕らが精読したところで怪しい点に気づけますかね。


話は少しずれますが、偶然にも、僕はオボちゃんの知り合いと飲む機会があったんですよ。それで、オボちゃんってどうだったの?と聞いてみたんですね。


そしたら、彼女にも本当のところはあった、と。


ふむふむ。論文全部が嘘ではなかったわけか。で、どこが?と聞いたわけです。すると、


おっぱいが大きいのは本当だ。


彼は自信満々で言うわけです。僕はこれを聞いて、光の速度で問いただしましたよ。


お前はちゃんと査読したんか、と。


まぁ、何が言いたいかっていうと、目の前に一次情報があってもその真偽を確認するのは簡単ではないということです。


僕は場末の3流研究者ですが、何回も査読をしたことはあります。もちろん論文のです。


正直言って、論文で示されているものが偽物かどうかなんて怪しんだことすらないです。


じゃあどうすれば怪しい情報を選別できるのかって言うと、Science Fictionsの中の非常に示唆的な一文があったんですよ。


言われれば当たり前ですが、忘れがちなとっても大事なことです。


“複雑な現象は多くの小さな影響で構成されている。”


例えば、学力や身長や性格や病気なんかの複雑な現象が、たった一つのパラメータで大きくコントロールされることは無いわけです。


無数のパラメータがちょっとずつ影響する。その無数の条件を固定化した上で、あるパラメータを変化させたら結果が大きく変わる。そういうことはあるでしょう。でも現実には、色んな条件が一緒に動いちゃうんですよ。


逆に言えば、これだけやれば劇的な効果があるという主張があったら、疑った方がいいでしょう。


〇〇するためのたった一つの方法、なんてタイトルの記事があったら眉唾ですわ。


ただこのスタンスも使い所やバランスが大事です。


ネット上のWEB記事なんかにはこのスタンスで良いと思います。一方で、会社の若手の提案に対して、いつもこんな態度でいたら、なんでも批判する老害になっちゃいますから。


老害化しちゃうのと似た話ですが、このスタンスにはネガティブな面があります。


本当にすごい発見を見逃しちゃうことです。


例えば、iPS細胞。たった4つの遺伝子を導入するだけで、iPS細胞を作れたわけです。こういう凄い発見も、怪しいと判断しちゃうことになります。


でもですよ。こう言うと元も子もないのですが、iPS細胞みたいな大発見をいの一番に知る必要があるのかと。


結局はノーベル賞を取って、世界中で認められたわけです。そこで情報をアップデートすれば十分じゃないですかね。僕ら一般人は。


「ぼくがかんがえたさいきょうの〇〇」に引っかかるリスクを取るより、「世界中で有効性が検証された〇〇」を発見から数年か10年か遅れて取り入れる方が有意義だと思うのです。


というわけで、最新の技術情報に触れた時、小さなことで複雑な事象をコントロールしようとしていたら話半分で捉えておいて、一方で、歴史の淘汰を超えてきた技術情報は積極的に取り入れていくのが良いスタンスじゃないですかね。

 

 

【参考文献】

スチュアート・リッチー、Science Fictions あなたが知らない科学の真実

 

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意外と知られてない「運動しても痩せない原因」と「運動しなければならない理由」


痩せたいというのは多くの人が思っていて、“ぼくがかんがえたさいきょうのダイエット法”なんてのが巷に溢れています。でも、そんなのを見るよりは、最新の研究成果を見る方がよいですね。そこにはとても重要なことが2つ書いてありました。


ひとつ目は、「運動しても痩せない」です。


そんなはずない。そう思う人が多いでしょう。僕だって、勇者ヒンメルならダイエットのために毎日運動する、と信じてなるべく運動するように努力してきました。


ダイエット目的で運動する人は、きっと以下のようなモデルを考えているでしょう。


【痩せるための不等式】

一日の食事で摂取したカロリー < 一日の消費カロリー = 体の基礎的な維持に必要なカロリー + 運動で消費するカロリー


食事で摂取したカロリーより、消費カロリーが多ければ痩せるはずで、運動すればその消費カロリーを増やせる。


何となく合っていそうな感じがしますよね。


ところが、そうはならないのです。


最新の研究によれば、いくら運動しても、一日の消費カロリーはほとんど増えていきません。


ジムに行って、たくさん走って、汗を流して、めっちゃ痩せる気がするわぁ、などと言っている人もいるでしょうが、気のせいです。一日の消費カロリーは増えていません。


いや、誤解のないように言っておくと、運動によって、たしかにその分のカロリーは消費してるんですよ。ということは?


運動以外での消費カロリーがその分減っているのです。

 

ここで、最新の研究でわかってきたふたつ目の発見です。


「運動すると健康になる。」


そんなの知ってるよ!と言いたくなるかもしれません。でも、運動するとなぜ健康になるかの説明は簡単ではないですよね。


痩せるための不等式に、一日の消費カロリーは、体の維持に必要な分と運動の消費カロリーの合算として書きましたね。これは正しくなくて、もう一つ、体の中の“不必要”な活動による消費が加わります。


不必要な活動の代表例は炎症です。炎症は様々な疾患の原因になりますね。


では、なぜ不必要な活動が日常的に体内で行われてしまうのか。


僕たちの身体のメカニズムは、狩猟採取時代から大きく変化していません。当時は、獲物を捕まえるために何キロも歩きつづけることが普通だったわけで、運動量も消費カロリーも現代よりずっと多いわけです。


実は僕たちの身体はその消費カロリーを常時維持するように出来上がっているのです。それなのに現代人はリモートワークで、Netflixしながら、Uber eatsしちゃっているので全然運動しない。


例えば3000キロカロリー使うように身体ができているのに、2000キロカロリーしか使えない。そうなると使い先に困った1000キロカロリーが変なところにいっちゃってるわけです。


お金のアナロジーで考えれば、年度末に余った予算で無駄なもの買っちゃったり、余ったお金でパパ活して寿司屋で喧嘩したりみんなするじゃないですか。あれですよ。


運動するというのは、この不必要な活動へまわっていたカロリーを消費することになるわけです。運動の重要性が分かりますね。


運動しても痩せないけど、運動するのは大事なのです。


そんなわけで、勇者ヒンメルなら‘’健康”のために運動する、と唱えながら、皆さんも運動しましょう。

 

【参考文献】

ハーマン・ポンツァー、運動しても痩せないのはなぜか: 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」

 

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期待感が高まりすぎたアルツハイマー病征服への物語。

これほど期待感を高めておいて、肩透かしを食らわせてきた物語は他にないんじゃないでしょうか。


世界に5000万人の患者がいるアルツハイマー病の治療薬開発です1,2)


この物語をちょっと昔の話から始めてみましょう。

 

始まりは1900年代のドイツ。精神科医アルツハイマー博士が、亡くなった認知症患者の脳を詳細に観察したんですね。すると、脳が萎縮していたりとか、異常な堆積物が存在することを発見して、その結果を学会で発表しました。


 

アルツハイマー博士3)

 

その発表がきっかけで、そういった脳の状態の患者がアルツハイマー病と呼ばれるようになっていきました。発見者の名前が病名になるのはよくある話です。


さて、異常な堆積物があったわけですから、これが病気の原因だろうと考えて、こいつは何者だと研究者たちは調べ始めました。


それで、この堆積物をなんとか脳から抽出して分析したところ、タンパク質の破片の塊であるアミロイドβが堆積していたと分かったのです。

 

アミロイドβ

 

ちょっと話は飛びますが、アルツハイマー病には遺伝性と非遺伝性があって、遺伝性は家族性アルツハイマー病と言います。アルツハイマー病になりやすい家系があるのです。


研究者たちは、その家系に特徴的な遺伝子を調べて、アルツハイマー病に関連する遺伝子を探索しました。


すると、見つかった遺伝子がまさにアミロイドβの生成に直接関わっていたのです。犯人はアミロイドβだ!そうみんなが思い始めました。

 


4)

 

そこでマウスの実験。家族性アルツハイマー病の遺伝子の状態をマウスで再現してみると、見事に脳にアミロイドβが堆積して、さらに認知機能も低下したのです。


もうアミロイドβアルツハイマー病の原因物質で間違いない!研究者たちは大興奮です。


原因が分かったわけですから、次はどうやって治療するかです。シンプルに考えればアミロイドβを除去したくなりますよね。でも、どうやって除去するか。排除します!と、どこかの都知事みたいに呟いても、簡単にはいきません。


ここで奇抜な発想が生まれました。ワクチンです。


新型コロナやインフルエンザでおなじみのアレですね。免疫系にアミロイドβを異物と認識させられれば、身体が勝手にアミロイドβを排除してくれるだろう、という発想です。


そんなわけで、アミロイドβをマウスの身体にワクチンとして注射してみたのです。


 


するとどうでしょう。期待通り免疫系が反応して、マウスの脳内のアミロイドβを除去してくれたのです。さらには、認知機能が回復するという素晴らしい結果が出ました。


こんなにトントン拍子で研究が進むものでしょうか!あと数年でアルツハイマー病を征服できる!と確信した瞬間でした。ここまで来たら、ALL-INです。製薬企業もガンガン投資していきます。医薬品開発では、開発費が100億円を超えてくることもあります。それでも成功すれば元がとれるわけです。


さぁ、勢いに乗ってヒトでの臨床試験です。ただ、ここでちょっと引っかかりました。


マウス同様にアミロイドβをワクチンとして投与したら深刻な副作用が出てしまい、臨床試験を続けられなくなってしまったのです。


さて、どうするか。ここで再び良い発想が生まれます。ワクチンを投与する大きな目的の一つは抗体を作ることです。だったら、最初からアミロイドβを認識する抗体を投与すればいいじゃないかと。いわゆる抗体医薬です。


そこで抗体医薬を使ったヒト臨床試験が始まりました。


その結果、マウスの時と同様に、見事に脳内のアミロイドβを除去できたのです!


1900年代から始まったアルツハイマー病との戦いの物語が遂に完結する。世界中の5000万人の患者とその家族を救える。誰もがそう思いました。

 

ところがです。

 

認知機能がほとんど改善しなかったのです。注)

 

原因だと考えられていたアミロイドβを除去できたのに、目的であるアルツハイマー病は治療できなかったわけです。


臨床試験の結果をもって感動のフィナーレのはずが、文字通り、「俺たちの戦いはこれからだ」になってしまったのです。製薬業界は莫大なお金を投資してきましたから、頭を抱えたことでしょう。


さて、どこで道を間違えてしまったのでしょうか。アミロイドβの発見から、ヒト臨床試験まで、まるで美しい物語を見ているかのようだったのに。

 

僕らは何か選択を間違えてしまったようです。

 

5)


実は、よくよくこれまでの道のりを見直すと、気になるところが出てくるのです。


アミロイドβを原因物質と判断していましたが、統計値として高齢者の30パーセントはアミロイドβが蓄積していても、症状が出ません。また逆に、認知機能に症状が出ている患者の15パーセントはアミロイドβの蓄積が見られないのです。


また、遺伝子変異マウスの実験にも批判があります。人間がアルツハイマー病になると認知機能がどんどん悪化していき、終いには亡くなってしまいます。一方で、遺伝子変異マウスは認知機能が低下したと言いましたが、人間ほどの症状ではなく軽いものだったのです。人間の状態を模擬できていないという批判があるのは当然ですね。


アミロイドβ犯人説に水を差すデータはいくつも転がっていたわけです。それでもアミロイドβを何とかするための研究に莫大な資金がつぎ込まれて来ました。


なぜこうなったのか。


色々な指摘がありますが、業界の中心にいる研究者が力を持ちすぎて「アミロイドの研究じゃなきゃ、アルツハイマー病の研究じゃない」と言われていた時期もあったようです。

 

権威を持つ研究者が“正しい”と言ったことが、“正しい”とされてしまったのかもしれません。
 

6)


僕の個人的見解としては、物語の力なんじゃないかなと。


認知症患者の脳にアミロイドβが堆積。家族性アルツハイマー病の関連遺伝子がアミロイドβの生成に関わっている。その遺伝子をマウスで再現すると認知機能が低下する。そして、ワクチンという奇抜な発想で、それを解決できた。原因の発見から解決法の提案までが、一本の道でつながったようでした。


美しい物語、みんなが信じたくなる物語、因果が明確で納得しやすい物語。そういった物語の力が、アミロイドβを基盤とするアルツハイマー病の研究を強引に推進してきたように思えるのです。


さて、アルツハイマー病の研究の将来はどうなっていくのでしょうか。未来のことは神のみぞ知るですが、現状のアミロイドβを狙った抗体医薬がイマイチなのは事実です。


高齢化社会の最先端を行く日本にとっては、アルツハイマー病を治療できるようになるかは重要な問題になってくるはずです。

 

【参考文献】

1. 下山進アルツハイマー征服、角川文庫
2. カール・へラップ、アルツハイマー病の研究 失敗の構造、みすず書房
3. アロイス・アルツハイマー(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC)
4. 青山剛昌名探偵コナン
5. 山田鐘人 (原作)、 アベツカサ (作画)、葬送のフリーレン、小学館
6. 吾峠呼世晴鬼滅の刃集英社

 

【注釈】

認知機能の低下速度を若干を抑える効果があるということで、製品化されている抗体医薬も存在します。ただし、薬価に対して効果が十分であるかは議論があります。

 

 

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「雰囲気で凄そうなことを言う人たち」がヒエログリフ解読を妨げた 。

ヒエログリフは紀元前3000年から400年ごろの古代エジプトで使われていた象形文字です。テレビやネットのエジプト特集で見たことがある人も多いでしょう。


例えばクイズ番組“世界ふしぎ発見”なんて、もう新しい不思議は残ってないだろ!くらいにエジプトの特集をやってますよね。そこでもヒエログリフを見かけたように思います。


そのヒエログリフですが、ロゼッタストーンの発見に端を発し、フランスの天才ジャン・フランソワ・シャンポリオンとイギリスの天才トマス・ヤングが競い合いながら解読されていきました(1)


最終的にはシャンポリオンが解読しきり、歴史に名を刻んだものの、途中まではヤングが一歩リードしていました。


そのヤングの解読を妨げたのが、雰囲気で凄そうなことを言っていた過去の偉人達だったのです。

 

ヒエログリフはその見た目の神秘性から、多くの人の興味を惹き、数々の偉人たちが独自の解釈を示してきました。


西暦120年ごろに活躍したギリシャの歴史家プルタルコスは、「ヒエログリフの魚は憎悪を表す。なぜなら、魚でいっぱいの海が、生命の源であるナイルを氾濫させるからだ。」と主張していました。


また、プルタルコスと同じ頃に著述家として活躍したアレクサンドリアのクレメンスは、「ヒエログリフは日常を描いた絵に見えて、実は鳥にも植物にも容器にも、もっと壮大な意味が込められていて、神秘性が強いものだ。」と考えていたようです。


さらに、西暦400年頃に活躍したエジプトの神官ホラポロは、「古代エジプト人は、神か、あるいは崇高なものを記号化したい時はタカを描く。他の鳥と違ってタカは真っ直ぐに飛び立てる。」と解釈していました。

 

このように数々の偉人達が、ヒエログリフの絵の一つ一つが神秘的なシンボルを表すと主張してきたわけです。


そして、この考え方が1000年以上も積み重なり、デファクトスタンダードとなっていきました。


ところがです。


なんと、これらの解釈のほとんどはデタラメで、偉人達のまったくの空想でした。

 

(2)

 

漢字のように文字そのものが意味を持つものを表意文字と言います。一方、アルファベットのように意味を持たず音でしかない文字は表音文字です。


過去の偉人達はヒエログリフ表意文字と捉えて、神秘的な意味を見出していたんですね。


ところが、ヒエログリフはほとんどが表音文字なのです(一部は表意文字です)。


例えば、ヒエログリフと、近い音のアルファベットを対応させると、フクロウの形をした文字は‘’m‘’、うずらの雛は‘‘u’’、パンは“t”になります。


これらの文字を組み合わせて単語を作り、そして単語になって意味を持つのです。つまり、ヒエログリフ一文字で何かの崇高な意味を持つわけではないのです。

 

ヒエログリフ表意文字である、という1000年以上も塗り固められた思考の枠がヤングの発想を邪魔しました。表意文字ではなく表音文字であると、考え方を変えられなかったのです。こうして、どっちが先に解読できるかレースでシャンポリオンに負けてしまったわけです。


逆に、その思考の枠を飛び出して、表音文字を基礎とするヒエログリフの文字体系を明らかにしたシャンポリオンが凄すぎると言うべきかもしれません。

 

過去からの間違ったデファクトスタンダードが思考の邪魔をするというのは、身近でもありそうです。僕も、会社の偉い人が、実は適当に言ったことを鵜呑みにしていることがあるかもしれません。


皆さんも周りで似た事例がないか考えてみると、良い発想ができるかもしれませんね。

 

【参考文献】

(1) エドワード・ドルニック、ヒエログリフを解け:ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース

(2) 三田紀房 、インベスターZ

 

【注釈】

ヒエログリフはほとんどが表音文字ですが、一部は表意文字です。ヒエログリフ表音文字は子音しかなく、母音がありません。このため、表音文字だけだと意味が一意に決まらないのです。そこで、単語の最後に決定詞という一文字で意味を持つ表意文字ヒエログリフがくっつき、読解を補助してくれます。詳しくは下記Webサイトを参照。


古代エジプト語のヒエログリフ入門

https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/category/rensai/hieroglyph/page/3/

 

 

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生成AIと僕たちはどう生きるか。

 

僕らがスクロールするインスタグラムのフィード、眺めるYouTubeの動画、読むニュース記事。それら全てが生成AIによって生み出されたものだとしたら……

 

ChatGPTを始めとする生成AIが社会を席巻しています。文章から動画まで次々と生成されていっています。


僕なんかがブログを書こうと思ったら数時間仕事です。ところがChatGPTなら1分やそこらで1記事を書き上げます。馬と車のように、生産効率が人間よりも圧倒的に高いのです(質は別の話ですが)。


Open AIのChatGPTは2021年9月までのデータのみを利用してモデルを作っています。サム・アルトマンがサボっている訳ではありません。2021年9月以降は、生成AIが生み出したデータが爆発的に増えています。人間が作ったデータを主な学習データにするためには、最近のデータは使えないのだろうと考えられるわけです。


ただし、そんな制約もそのうち取っ払われるでしょう。そうすると、生成AIが作ったデータを学習して、生成AIが新しいデータを作る。そのデータをまた学習して、新しいデータを生成する。そんなサイクルが次々と回っていきます。


やがてネット上に溢れている情報のほとんどは生成AIによって生み出されているという状況がやって来ます。


もはや自分で作り出したもの以外は、どれが人間の手によるものか確証が持てません。

 

「教養としての生成AI」の筆者でありプログラマーの清水亮氏は、AIを「思想を映す鏡」と評しています。現実世界を精緻に模倣する鏡なわけです。


僕らはその鏡を便利ツールとして使ってきました。ところが生成AIが作るデータが溢れてくると、鏡を覗いているつもりが、自分が鏡の中にいるかもしれないのです。その時に僕らは、鏡が歪んでいるかの判断がつくでしょうか。


では一方で、現在、僕ら人間が生み出しているデータが全て真実に基づいていて歪んでいないかと問われたら、答えに窮するでしょう。


特にSNSが普及してからは、フェイクニュースが大量に生産されて問題になっています。


例えば、新型コロナワクチンにはマイクロチップが入ってるとか、福島県産の食品を食べるのは危険とか、小泉進次郎氏が原発処理水の安全性アピールに福島でサーフィンしたとか、そんなフェイクが飛び交っています(最後のはホントの話か……)。


むしろ人間が生み出したデータの方が歪んでいて、生成AIはそれを補正する役割かもしれません。

 

まぁ、そんなわけで生成AIによって社会がどう変わっていくかは全然読めません。


ただ、出生率を基に人口動態を高精度で予測できるように、データの生産効率から、ネット上に新たに生み出されたデータのほとんどが生成AIによるものになるでしょう。

 

そのほとんどはガラクタで見向きもされないかもしれないし、僕らが熱狂するものが生み出されるかもしれません。


僕らは否が応でも、生成AIとどう生きていくかを考えさせられる事になりそうです。

 

 

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