ヒトはなぜ白髪になるのか。
自分の頭に白髪を発見するたびにそう思ってきた。そして、老けて見えるから嫌だなぁと思って見つけるたびに白髪を切ってきた。
白髪の主な原因が老化だとしたら抗えないのかもしれない。
一方で、もう一つよく言われる原因がストレスだ。
マリーアントワネットが処刑のストレスで一夜にして髪全体が白髪になったという話は有名だが、きっと都市伝説だろう。
本当に僕らはストレスで白髪になるのだろうか?マンガに描かれたネタか何かじゃないのか?
そんな疑問に答えてくれる論文が科学雑誌Natureに発表されたので紹介しよう(1)。
マウスを実験動物として使ったこの論文の結論を先に言うと、ストレスは白髪を誘発する。
まずはストレスが無い状態で、髪が黒くなるメカニズムついて説明しよう。
(参考文献(2)より引用)
毛根には毛隆起(Hair bulge)という場所があり、そこに色素幹細胞(MeSC)が住んでいる。
色素幹細胞は、仕事に行くぞぉ!とばかりに表皮に向かい、そこで色素細胞(Melanocyte)に変化する。そして色素細胞が色素(Pigment)を供給することで髪が黒くなるのだ。
ただし、色素細胞はある程度働くと死んでしまうので、別の色素幹細胞が表皮に移動して来るというサイクルが繰り返される。
ではストレスがかかるとどうなるか。
(参考文献(2)より引用)
ここで言うストレスは命の危機を感じるような過大なものだ。そういったストレスに晒されると、動物は闘争・逃走反応を示す。火事場の馬鹿力という状態だ。
この時、神経系からノルアドレナリンという物質が放出され、色素幹細胞に刺激を与える。
この刺激は強力だ。もっともっと働けぇ!という大号令の下、色素幹細胞は異常なスピードで色素細胞へと変化していく。
次々と変化していった結果、気付けば色素幹細胞が枯渇してしまうのだ。
まさに、そして誰もいなくなった状態。色素幹細胞がいなければ髪を黒くすることはできない。
過大なストレスを受けると文字通り、
(参考文献(3)より引用)
燃え尽きたぜ…真っ白にな…
となってしまう。
やれやれ、どこかのブラック企業の様な出来事が僕らの頭皮でも起こっているようだ。
さて、この論文によって白髪が生まれるメカニズムは分かったわけだが、じゃあなんでストレスを受けると白髪になるように体が設計されているのか。
そのヒントはゴリラにあるかもしれない。
若いゴリラや雌ゴリラの体毛は黒いが、成熟した雄ゴリラは背中の体毛が白くなる。通称シルバーバックだ。
ゴリラは生態として、シルバーバックの雄ゴリラをリーダーとして、複数の雌と子供達からなる群れを作って生活している。
シルバーバックは成熟を示し、そして命の危機となる様なストレスを乗り越えたリーダーとしての器も示してるという説がある(2)。
僕らも白髪を見つけた時に、老けたなぁなんて思う必要は無い。
白髪は死線を乗り越えてきたことを示す勲章なのだから。
【参考文献】
- Zhang, B et al. Hyperactivation of sympathetic nerves drives depletion of melanocyte stem cells, Nature (2020) (https://www.nature.com/articles/s41586-020-1935-3)
- How the stress of fight or flight turns hair white, Nature News and Views (https://www.nature.com/articles/d41586-019-03949-8)
- あしたのジョー
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