サイエンスの香りがする日記

実体験や最新の科学技術をコミカルに綴ります。

お金は遺伝に勝てるのか。

知能は遺伝する。

 

そうは言っても、知能の100%が遺伝子で決定されるわけじゃない。だから、遺伝子ガチャを乗り越えるため、僕らは一緒懸命に勉強するし、子供には少しでも良い教育を与えようと、塾に課金したりするわけだ。

 

でも、お金をかければ遺伝子ガチャを乗り越えられるのだろうか。はたして課金額が増えるほど、遺伝子の鎖を解き放って、ずっと遠くへ飛び立てるのだろうか。



行動遺伝学は、遺伝と知能の関係など、人間の様々な特性への遺伝の影響を調べる研究分野だ(1,2)。

 

例えば、知能の遺伝率は50%程度であることを示している。知能は人によってばらつくわけだが、そのばらつきの50%が遺伝子によってコントロールされていると考えられる。

 

さて、僕らが気になるのは、お金と知能と遺伝子の関係だ。

 

親の経済状況と、子供の知能への遺伝率を調べた研究がある。親が裕福なほど遺伝率が低いのであれば、遺伝子の制約をお金で取り払えたと推測できる。さぁSAPIXにガンガン課金しよう!という結論になるだろう。

 

ところが期待とは裏腹に、結果は逆なのだ。

 

経済状況が豊かな親の子ほど遺伝率が高い。お金をかけるほど、その子の知能に遺伝子の影響が見えてくる。

 

これはどういうことだろうか。行動遺伝学では次のように考察している。

 

経済的に豊かな環境下の子どもは自分の遺伝的資質に合わせて自由に環境を選択できる。算数が得意な子は公文に行ったり、音楽が好きな子はピアノを習ったり。その結果、遺伝の差異がより顕在化していく。

 

一方、貧しい環境下の子どもは、知的成長に振り向けられる時間やお金に制約がある。得意不得意は関係なく、最低限の教育が施される。

 

お金で遺伝に勝つというストーリーではなく、お金が遺伝的に持っている潜在能力を開花させているのだ。



では、この行動遺伝学の結果を前提に、これからの未来を見通してみよう。

 

インターネットによって知の民主化が進んだと言われている。大学の授業が無料で公開されて、貧しい人でも高等教育にアクセスしやすくなった。

 

そしてさらに生成AIの登場である。生成AIは個々人に最適なメンターになるポテンシャルがある。

 

算数が得意な子にも音楽が得意な子にも、その子のレベルに最適な教材を提供して、さらにフィードバックをくれるサービスが今の塾に比べれば無料に近い価格で登場するだろう。

 

こんな状況が実現すると、これで生まれに関係無く、本人の努力次第の世界がやってきたと考えてしまう。

 

だが教育コストが下がるというのは、現状裕福な親が子に提供している教育を、多くの人が享受できるということだ。

 

つまり、行動遺伝学の結果を考慮すると、‘’生まれより努力”の世界というよりは。。。

 

世界はみんなが期待したものとはちょっと違う方向に進んでいくのかもしれない。




【参考文献】

  1. 安藤寿康 教育は遺伝に勝てるのか
  2. 安藤寿康 能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ

 

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