新型コロナ対策で行われた都市ロックダウンのおかげで自然環境は良くなったのでは?
人々の動きを止め、感染の蔓延を防ぐため、世界中の都市でロックダウン政策が取られた。
工場の稼働停止や自動車の利用量低下などの結果として、自然環境が改善しただろうというのは多くの人が考える予測だろう。
それは本当だろうか。論文を見てみよう。
Nature姉妹紙に掲載された論文では、世界中の二酸化炭素排出量を計算した結果を報告している1)。
それによればコロナ影響によって世界全体で排出量が2019年比で17%低下しており、かつてない低下量のようだ。
やはり人間が活動を減らせば二酸化炭素は出ない。
さらに中国における大気汚染状況を調べた論文がある2-4)。
調査結果によれば、ロックダウンによって排ガス量が大幅に減少し、その結果PM2.5も減少したというのだ。
中国ではAPECや北京オリンピック時に、空を青くするため工場などからの排ガス量を強制的に低下させた事があった。その時の状態をAPEC BlueやOlympic Blueと呼んでいるが、今回はその時以上の効果とのことだ。Corona blueと言ってもいいのかもしれない(違う意味でブルーになっている人も多そうだが)。
論文によれば、僕らの期待通り新型コロナによって自然環境は改善していたようだ。
こういう報告を読むと考えずにはいられない。新型コロナは地球の怒りなんじゃないだろうか。地球を汚染する人間どもを懲らしめるために放たれたのではないか。
新型コロナによって僕らはこれまでの行為を反省させられているのかもしれない。
、、、なんていう風なチープなSFストーリーを語りたいわけじゃない。
論文によるとたしかに中国でのPM2.5濃度は低下した。だが一方でオゾン濃度が上昇していた事も明らかになった2-4)。
オゾンはPM2.5同様に死亡リスクを上昇させる事が報告されており、近年中国では危険視されている大気汚染物質だ5)。オゾンは上空に存在すれば紫外線から僕らを守ってくれる盾なのだが、地表付近に高濃度で存在すると僕らを傷つける毒になってしまうわけだ。
似た現象は過去にも見られている6)。2013〜2017年に中国では、政策的にPM2.5を減らそうと努力してきた。
その結果としてPM2.5は減ったのだが、オゾンが今回のように増えてしまっていた。
PM2.5などの大気中の粒子は紫外線を散乱させてオゾンの生成を防いだり、オゾンの前駆体を吸収する役割を果たしている。このため、PM2.5の減少が逆にオゾンの増加に繋がったと予測されている。
オゾンとPM2.5はその量が複雑に関係し合っており、そのメカニズムはまだ明らかになっておらずコントロールが難しい。
このように影響し合う複数の要素を同時に最適化するのは思った以上に難しいのだ。環境問題の難しさの一端はここにあるのかもしれない。
【参考文献】
- Le Quéré, C. et al. Temporary reduction in daily global CO2 emissions during the COVID-19 forced confinement. Nat. Clim. Chang. 10, 647–653 (2020).
- He, G., et al. The short-term impacts of COVID-19 lockdown on urban air pollution in China. Nat Sustain (2020).
- Le, T. et al., Unexpected air pollution with marked emission reductions during the COVID-19 outbreak in China. Science 369(6504), 702-706 (2020)
- Wang, Y. et al., Contrasting trends of PM2.5 and surface-ozone concentrations in China from 2013 to 2017, National Science Review, 7, 1331-1339 (2020)
- Qian Di, M.S. et al., Air Pollution and Mortality in the Medicare Population. N Engl J Med. 376, 2513-2522 (2017)
- Li, K. et al., Anthropogenic drivers of 2013–2017 trends in summer surface ozone in China. PNAS 116 (2) 422-427 (2019)
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