サイエンスの香りがする日記

実体験や最新の科学技術をコミカルに綴ります。

最新のレーザ技術で考古学が劇的に発展。教科書が書き換わる新発見が続いている。

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インディ・ジョーンズもこれがあればもっと楽を出来たかもしれない。

 

考古学では、新技術の誕生によって劇的に発展することがある。

 

例えば放射性炭素年代測定によって、遺跡で発掘された物の使用年代が高精度で分かるようになった1)

 

医療現場でよく使われるX線CTを応用することで、調査対象を傷つけずに内部構造を分析できるようになった2)

 

そして近年ここに新しい技術が加わったのだ。

 

それがライダーである。

 

腰にベルトを巻いて、へ〜んしん!!

 

という話ではもちろんなく、

 

ライダー(LiDar: Laser Imaging Detection and Rangingレーザ画像検出と測距)だ。

 

自動運転車や最近ではiPadにも搭載されている画像化技術だ。

 

レーザを対象物に当て、反射して帰ってくるまでの時間を基に、対象物の3次元構造を取得できる。

 

ライダーをドローンなどの航空機に取り付け、上空から観察することで広範囲の地形や構造物の形状が得られるのだ。

 

このライダーを使って遺跡の発見や分析を試みる研究が近年増えてきている3)

 

この話だけを聞くと、Google mapにあるような衛生画像で十分なんじゃないの?と思うかもしれない。

 

しかし衛生画像は宇宙から撮影しているだけあって精度が十分ではない。

 

特にライダーを使うと、樹木で反射した光と、樹木の下に隠れた構造物で反射した光を見分ける事ができる。

 

つまり衛生画像では分からなかった樹木に隠れた遺跡の姿を明らかにできるのだ。

 

2013年に米国アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文では、カンボジアのアンコール遺跡を上空からライダーで観測した4)

 

その結果、格子状に配置された道路や水路が発見され、古代都市としての水利構造が明らかになった。

 

観光地になるほど有名な遺跡であっても、地上で観察しているだけでは分からないことがある。

 

2018年にScience誌に掲載された論文では、マヤ文明の調査のためにグアテマラ北部2000km2以上という広大な範囲をライダーで観測している5)

 

観測データを解析することで、6万個以上の古代の構造物を確認し、当時その場所の人口が1,100万程度もあったという見積もりを算出できた。

 

さらに、家屋が密集している都市と、点在している田舎が存在し、それらが道路で結ばれているという現代と似た社会構造が明らかになったのだ。

 

そしてさらに本年2020年6月。Nature誌に大発見が報告された6,7)

 

メキシコのタバスコ州をライダーで探索したところ、マヤ文明に関する過去最大の構造物を発見したのだ(図1)。

 

その大きさ南北に1,400m、東西に400m、高さ15mという巨大さで、総体積はエジプトのピラミッドをも上回る。

 

マヤ文明時代にどのように使われていたかはまだ不明だが、その形状から季節によって変化する太陽の位置を観測する儀式に使われていたと推測されている。

 

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図1 マヤ文明の巨大遺跡。a. ライダー画像。巨大構造物E groupを確認できる。スケールバーは500mを示す。 b. 利用シーンのイメージ図。Western moundからEastern platformを眺め、太陽の位置を確認する。(参考文献7より引用)

 

 

これほど巨大な構造物がこれまで発見されなかったことを不思議に思うかもしれない。

 

だが、地上を歩いているだけではあまりに大き過ぎて自然の丘なのか構造物なのか判別できなかったのだ。ライダーを使ったからこそ発見できたと言っていいだろう。

 

世界にはまだまだ不思議が隠されている。

 

ライダーがあれば危険を冒してジャングルを探検しなくても、画期的な発見が出来る可能性がある。

 

階段を登るだけでゼィゼィする軟弱な僕らにもチャンスがあるかもしれない。

 

さぁ、ライダーを使ってインディ・ジョーンズに変身だ!



【参考文献】

  1. 岸井 貫,縄文土器の始めと終わり-最近のカーボン14年代測定法の適用-.マテリアルインテグレーション, 13(11), 55-59 (2000)
  2. 辻村 純代,古代エジプトにおける子供の埋葬。ヘレニズム〜イスラーム考古学研究.77-85 (2019)
  3. 早川 裕弌、3次元デジタル技術の地形学・考古学への応用。精密工学会誌。85(3), 243-246 (2019)
  4. Damian H. Evans et al., Uncovering archaeological landscapes at Angkor using lidar, PNAS, 110 (31) 12595-12600 (2013)
  5. Marcello A. Canuto el al., Ancient lowland Maya complexity as revealed by airborne laser scanning of northern Guatemala, Science, 361(6409) (2018)
  6. Inomata, T., et al. Monumental architecture at Aguada Fénix and the rise of Maya civilization. Nature 582, 530–533 (2020).
  7. Patricia A. McAnany, Large-scale early Maya sites in Mexico revealed by lidar mapping technology, Nature News and Views (2020)

 

 

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