新型コロナウィルスはどこからやって来たのか。
「中国で発生したウィルスのせいで国民が危機にさらされている!」とアメリカは言う。
「新型コロナウィルスは国外から持ち込まれたものだ!」と中国は言う。
さて、真実はどこにあるのか。
中国が発生源と言われるウィルスが世界に危機をもたらしたのは今回が初めてではない。2002年にはSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生している。
SARSは世界中で約800人の死者を出して終息した。SARSもコロナウィルスが原因であり、ウィルスの遺伝子解析の結果、その感染経路がおよそ明らかになっている。
SARSの発生源はコウモリで、そこからハクビシンに感染し、そして人間に感染したようだ1)。中国では一部の人がハクビシンを食べているため、感染リスクが高かったのだ。
さて今回の新型コロナウィルス。中国の研究所で作製した人工ウィルスじゃないか?という陰謀論もあったが、それは遺伝子解析で否定され2)、どうやら発生源はコウモリのようだ3)。
そしてSARSと同様に、コウモリから別の動物を経由して人間に感染した疑いがある。
今回はハクビシンではない。
その動物とは?
4)
ウロコを持つ唯一の哺乳類である珍獣センザンコウが媒介したというのが一つの説だ。
中国に密輸されそうだったセンザンコウが税関で発見され、その体液を分析すると、新型コロナウィルスと非常に似たウィルスに感染していることが分かったのだ5,6)。
実はセンザンコウは世界で最も多く密輸されている動物であり絶滅危惧種だ7)。裏社会の珍獣ハンター達がセンザンコウを密猟して、そしてその多くを中国に密輸しているのだ。
中国が言う通り、新型コロナウィルスは中国外から持ち込まれた可能性がある。
では、なぜ中国ではセンザンコウの需要が大きいのか?
見た目が可愛いから?
違う違う。センザンコウのウロコは中国の伝統的な漢方薬に使われているのだ。
爪の垢を煎じて飲むくらいにウロコを煎じて飲んでも薬効は無いことが研究で明らかなのだが、昔からの文化が残っているようだ。
密猟によって絶滅危惧種となったセンザンコウから人間にウィルスが感染し、人間社会に危機が訪れているのだとすると、なんだかおとぎ話によくある因果応報の逸話のようだ。
【参考文献】
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Michael Gross, Virus outbreak crosses boundaries, Current Biology, 30, R191-R214 (2020)
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Andersen, K.G. et al., The proximal origin of SARS-CoV-2. Nature Medicine (2020).
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Peng Z. et al., A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin, Nature, 579, 270-273 (2020)
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U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters - Manis pentadactyla
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Tao Z. et al., Probable pangolin origin of SARS-CoV-2 associated with the COVID-19 outbreak, Current Biology, 30, 1-6 (2020)
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Lam TT. et al., Identifying SARS-CoV-2 related coronaviruses in Malayan pangolins, Nature (2020)
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Proceedings of the workshop on trade and conservation of pangolins native to South and Southeast Asia (2008)
【注釈】
センザンコウから直接人間に感染したという証拠は今のところ無い。また、センザンコウから見つかったコロナウィルスの遺伝子には、強い感染力を示す部位が見つからなかったとの報告もある。センザンコウからさらに別の動物を媒介したという考えや、コウモリとセンザンコウのコロナウィルスが組み合わさって変異したなどの様々な考えがある。
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