「1千万人以上の人が次の数十年で亡くなるような災害があるとしたら、それは戦争というよりはむしろ感染性の高いウィルスが原因の可能性が大いにあります。」
これは2015年のシンポジウムでビルゲイツが述べた言葉だ。
新型コロナウイルスに襲われた現状で読むと、その先見性の高さに驚くだろう。
僕が当時ちょうどビルゲイツと同じ事を考えていたのは言うまでもない。
さて、こういった感染症はコウモリや蚊などの動物や虫から人間に感染して広がっていく。このため、自然との接触が多い地域で発生しやすい事が知られている1)。
では、感染症の患者数に影響を及ぼしている要因は何だろうか。
感染症の中でも年間数10万人の死亡者を出しているマラリアについては多くの研究が行われ、重要な知見が集まっている。
2019年の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文によれば、森林破壊がマラリアの患者数に影響するということだ2)。
アマゾン熱帯雨林を有するブラジルを対象として2003年から2015年の傾向を分析し、森林破壊が10%増加するとマラリアの発生数が3%上昇するという関係性を見出したのだ。
森林を壊しながら人々の生活圏を広げていく過程で、人間とマラリアのホストとの接触数が増加することが要因の一つであると予想されている。
ただ、こんな話を日本にいながら読んでも、
何それ?地球の裏側の話でしょ?
森林破壊って昔のニュータウン開発か何かの話?マラリアじゃなくてタヌキが出てくるわ。
なんて思ってしまうかもしれない。
だが、ちょっと考えてみてほしい。
君が、在宅勤務マジ最高だわぁと言いながら、ツイッターしつつ飲んでいるコーヒーの原料はどこから来ただろうか。
君の出っ張ったお腹の主要成分であるチョコレートの原料はどこから来ただろうか。
Nature Communicationsに今年掲載された論文によれば3)、森林破壊によって生じるマラリアのリスク上昇の20%は、発展途上国から先進国への商品の輸出が関わっているというのだ。
先進国の需要に合わせて、発展途上国では農場や工場設立のために森林破壊を行い、それがマラリアのリスクを高めているようだ。
経済がグローバル化している現代では、”風が吹けば桶屋が儲かる”のごとく、”コーヒーを飲むとマラリア患者が増える”と言っても、笑い事ではすまないのかもしれない。
【参考文献】
- Allen T. et al., Global hotspots and correlates of emerging zoonotic diseases, Nature Communications, 8, 1124 (2017)
- MacDonald A.J. et al., Amazon deforestation drives malaria transmission, and malaria burden reduces forest clearing, PNAS, 116, 22212-22218 (2019)
- Chaves L.S.M. et al., Global consumption and international trade in deforestation-associated commodities could influence malaria risk, Nature Communications, 11, 1258 (2020)
本記事は下記クラブのご協力を得ています。
面白い文章を書けるようにするクラブ - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)