感染拡大に終わりが見えない新型コロナウィルス。
中東を恐怖に陥れたMERSウィルス。
致死率20%以上でアフリカを苦しめたエボラウィルス。
これら全てのウィルスはコウモリが発生源だと考えられている1,2)。
おいおい、バットマンは正義の味方なのに、コウモリはどっちかと言うとジョーカーの方じゃないか!
ここでふと疑問が出てくる。
コウモリってウィルスに感染してて辛くないの?
熱が出て頭が痛いとかならないの?
風邪を引いているのが普通になっちゃって何も感じなくなっちゃったの?
近年の研究によれば、冗談とも言えないようだ3)。
哺乳類で唯一コウモリだけが空を飛ぶ事ができる。
空を飛ぶという行為は非常に激しい運動だ。一般に激しい運動は細胞にダメージを与え4)、それに反応して免疫系が働いて炎症が起こる。
ところがコウモリは他の哺乳類とは異なり、免疫系が”ほどほど”にしか反応しないように調整されているのだ。
神様が狙って作ったのかは分からないが、この調整がウィルスとの共生に繋がった。
ウィルスがコウモリの細胞に感染しても、免疫系は”ほどほど”にしか反応しない。このため、ほとんど無症状でいられるのだ。
コウモリは飛行という能力の副産物として、ウィルスと共生できる力を得たようだ。
さらに別の興味深い研究がある。
ウィルスの特徴は、感染した細胞の力を借りてドンドン増殖していく点だ。コウモリはその増殖を抑制する特異的な機能を有しているらしい5)。
コウモリにとっては有益なこの機能も、僕ら人間にとっては悪魔の仕掛けだ。
コウモリの中でウィルスはその抑制に抗って増殖能を高めようと成長していく。コウモリの中では抑制と増殖がバランスしているようだ。
ところがウィルスがコウモリを飛び出して、そんな特異的な抑制機能を持たない動物に感染したらどうなるだろうか。
ウィルスはコウモリの中で鍛え上げた増殖能を存分に発揮する。
まさにそれが僕らの目の前で起こっている状況なのだ。
最後に恐ろしい事実を伝えておこう。
コウモリは種類が多岐に渡り、哺乳類の約4分の1はコウモリである2)。
その種類数はなんと約1100。それぞれが異なったウィルスを持っている可能性がある。
新型コロナウィルスを早く終結させたいと多くの人が望んでいるだろうが、ウィルスとの戦いはまだ序章に過ぎないのかもしれない。
【参考文献】
- Peng Z. et al., A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin, Nature, 579, 270-273 (2020)
- 前田 他, コウモリ由来のウィルスとその感染症, 獣医疫学雑誌, 15(2), 88-93 (2011)
- Xie J. et al., Dampened STING-dependent interferon activation in bats, Cell Host&Microbe, 23, 297-301 (2018)
- 大石、運動と酸化ストレス-活性酸素と抗酸化防御のバランスの重要性-, IRYO, 69(7), 317-324 (2015)
- Brook C.E. et al., Accelerated viral dynamics in bat cell lines, with implications for zoonotic emergence, elife, 9, e48401 (2020)
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