「最近、髪が薄くなってきたね。」
えっ、、、、?!
美容師さんから突然そう言われて、僕は激しく動揺した。僕の親族はみんな髪がフサフサなので、薄毛に関しては心配していなかったのだ。
全くの死角から一発殴られたかのような衝撃で、危うく顔が一回転するところだった。
その後の会話は覚えていない。ずっと目の前の鏡に映る自分の頭を見つめていた。
美容室を出て、精神衰弱の頭フラフラ状態で家路につき、妻に事情を説明した。慰めて欲しかったのだ。髪フサフサだよ、なんて言って欲しかったのだ。
ところが、妻は思わぬ一言をぶつけてきた。
「気付いてたよ。」
灯台下暗しとはこの事である。髪の毛が減って輝きを得つつある僕の頭の事を、周りの人間の方が理解していたのだ。妻の一言で、僕は絶望の淵に叩き落とされた気分になった。
神様!なぜ僕の大事なものを奪うのか?!
僕は毎年初詣のたびに、研究者として輝かしい成果を出せますようにと祈っているが、輝かしい頭になりますようにとは頼んでない。僕は神様ばかりに目を向けて、髪様を無視していたのだろうか。
どうにかしなくては。絶望している場合じゃない。まだ諦めるような年齢じゃない。
僕も研究者の端くれだ。まずは最近の薄毛対策に関する論文を読もうと思い立った。早速Googleで検索してみると、素晴らしい文献に出会えた。
”男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版”
日本皮膚科学会が発表したガイドラインである。数多くの論文を基に、現存する薄毛対策を評価して、その効能をAからDでランク付けしている。Aは「行うよう強く勧める」で、Dは「行うべきではない」だ。
論文を読む手間が省けた。この文献を頼る事にする。巨人の肩の上に乗って、絶望の淵から抜け出すのだ。
この文献では男の薄毛のことを「男性型脱毛症」という疾患名で呼び、病態が説明されている。そのまま引用しよう。
”男性型脱毛症とは,毛周期を繰り返す過程で成長期 が短くなり,休止期にとどまる毛包が多くなることを 病態の基盤とし,臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が, 軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象である。”
最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象である。
理解はしていたが、あらためて文章で見るとインパクトがある。僕の願いは、表皮に現れなくなった頭髪を何とか復活させたいという事だ。
さて、Aにランク付けされているのは次の3つの治療薬だ。
①フィナステリド(内服薬)
②デュタステリド(内服薬)
③ミノキシジル(外用薬)
どの薬も、数100人から数1000人を被験者として実施した研究で増毛効果が確認されているようだ。これは心強い。
ただし副作用には気をつけなければいけない。特に、デュタステリドには怖いことが書いてあった。
インポテンツ 11.7%, 射精障害 5.0%(症状が出た被験者の割合)
上を取るか、下を取るか。あちらを立てれば、こちらが立たず。
デュタステリドはやめておこう。変なリスクを取る必要はない。そうなると、フィナステリドとミノキシジルだ。
フィナステリドは内服薬だけあって、通常は病院で処方してもらう必要があって面倒だ。消去法でまずはミノキジルを試すことにする。
ではミノキジルは簡単に買えるのか?
ミノキジルは有名な「リアップ」の主成分なのだ。リアップならネットショップでも購入できる。
長々と検討してきたが、結局は有名なリアップを使えということだ。絶望する必要はなかった。既存の薬が十分に有効なのだ。
ただしリアップ(ミノキジル)も魔法の薬ではない。効果が出ない人もいるし、1年くらいは継続的に利用する必要がある。そこらへんは納得しよう。
完璧な治療薬などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
僕は1年間リアップを使ってみることにする。頭皮で風の歌を聴きながら。
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