時を遡ること5万年前。人類発祥の地と呼ばれるアフリカ大陸。当然ですが、インターネットもなければ、電話もありません。それでもアフリカ東部と南部という3000 km以上離れた場所に住んでいた部族が交流していた。
そんな興味深い考古学の調査結果が出ています1,2)。
3000 kmというのは日本列島の長さに匹敵します。北海道と九州の人たちが電話も無しにコミュニケーションしていたと聞けば驚くでしょう。まぁ、日本の場合は間に海があるから例えが悪いですが。
それはさておき、5万年も前の人々の行動をどうやって考古学者は調べたのでしょうか。
タイムマシーンはもちろんありません。
古代の手紙が残っていたのでしょうか。
洞窟に壁画が残っていたのでしょうか。
そうではありません。
実は、ダチョウの卵を解析したのです。
アフリカでは古代からダチョウの卵の殻を様々な目的で使っていました。水を入れる器にしたり、装飾品を作ったり3)。そういったものがアフリカの遺跡では見つかるわけです。これまでにも、発掘されたダチョウの卵を解析した考古学の論文がいくつか出ています4,5)。
今回の論文では、ダチョウの卵で作ったネックレスのビーズに着目しています。
6)
ダチョウの卵を小さいドーナツ形状のビーズに加工して、それを繋げたネックレスです。写真で分かるように、かなり精巧ですね。
論文ではまず、発掘された地層やその他の分析結果から、ビーズを発掘場所と製作された年代で分類しました。そして、そのビーズの形状を測定したのです。
するとどうでしょう、5万年前に東アフリカと南アフリカで作られたビーズは、その形状がミリメートル単位で一致したのです。
そもそもビーズはドーナツ形状である必要はないし、大きさだって千差万別でも不思議ではありません。それなのに形状が一致しているわけです。
ビーズの形状は、人々の文化の影響が出るでしょうから、発掘地域の間で交流があっただろうと推測できます。
まぁ、そうは言っても、
形状の一致くらいで交流があったなんて思えないな。
そう考える人もいるでしょう。
そういう人は、いったん論文の話題から離れて、目をつぶって想像してみて下さい。
君は高校の教室に座っています。
隣の席には君が想いを寄せている吹奏楽部の女の子が座っている。恥ずかしがり屋の君は、その気持ちを告げられず、できることと言えばチラチラと彼女を見ることだけだ。
ある日、数学のテストの時間。君は恐ろしいものを目にする。
同じクラスメイトのサッカー部のキャプテンのイケメンと、君の大好きなその女の子が左手に全く同じデザインの手作りミサンガを付けている。
どう思いますか?
ただの偶然だと思いますか?
クラスで2人の席がどんなに離れていようと、
お前ら付き合ってるだろ!
そう確信しますよね。つまりそういうことです。
さて、論文の話に戻りましょう。
5万年前の時点では東アフリカと南アフリカでビーズの形状が一致していました。ところが、3万年前から2千年前ごろに作られたビーズを見ると、サイズが全く異なってくるのです。そして再び2千年前以降になると、形状が近づいてきます。
付き合っていたカップルが、いったん別れたんだけど、再びよりを戻した。そんな事を想像できますね。
では、3万年前から2千年前には何があったでしょうか。
東アフリカと南アフリカの境界には、ザンベジ川という大きな川があります。気候変動をシミュレーションした研究によれば、3万年前から2千年前の間に、ザンベジ川の水量が増大して、川幅がかなり広がったようです7)。
この影響によって東アフリカと南アフリカの交流が断絶したと推測されています。
一方、2千年前以降は、遊牧民の活動が活発化してきて、交流が復活したものと考えられています。
3000 kmも離れた東アフリカと南アフリカの部族は、気候の影響を受けながら、交流したり、断絶したり。交流範囲を時代によって変化させていたのでしょう。
ダチョウの卵でできたビーズという小さな発掘物から、古代の人々の行動をここまで推測する。考古学というのはロマンがありますね。
【参考文献】
- Miller, J.M., Wang, Y.V. Ostrich eggshell beads reveal 50,000-year-old social network in Africa. Nature 601, 234 (2022).
- Collins B.R., Hatton A., Beads reveal long-distance connections in early Africa. Nature 601, 199 (2022)
- d'Errico F., et al., Early evidence of San material culture represented by organic artifacts from Border Cave, South Africa. Proc Natl Acad Sci U S A 109(33), 13214 (2012)
- Miller J.M., Sawchuk E.A. Ostrich eggshell bead diameter in the Holocene: Regional variation with the spread of herding in eastern and southern Africa. PLoS One 14(11), e0225143 (2019)
- Stewart B.A., et al., Ostrich eggshell bead strontium isotopes reveal persistent macroscale social networking across late Quaternary southern Africa. Proc Natl Acad Sci U S A 117(12), 6453 (2020)
- https://www.shh.mpg.de/2080930/beads-social-network-africa
- van der Lubbe H.J.L. et al., Neodymium isotope constraints on provenance, dispersal, and climate-driven supply of Zambezi sediments along the Mozambique Margin during the past ∼45,000 years. Geochem. Geophys. Geosyst. 17, 181 (2016)
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