僕は結婚式に出るのが好きです。
神聖なチャペルの中で、牧師さんが唱える誓いの言葉を聞く。新郎新婦の幸せを一緒に噛みしめるこの瞬間が特に好きです。
こんな風に思っていた日もありました。いやはや、トム先生にさえ出会わなければ。。。
僕は英語の勉強が趣味の一つで、カフェで英会話レッスンを受けています。トム先生とは英語講師の派遣業者を通して知り合いました。
初めて会った時のトム先生はいかつい風貌でちょっと怖かった。でも、気さくな先生であっという間に仲良くなりました。
週1回のレッスンを繰り返していたある日のこと。トム先生に、土日は何をされているのですか?と聞くと、先生は答えました。
「牧師をしています。結婚式で新郎新婦を祝福しているよ。」
おおぉ!僕はクリスチャンでも何でもないですが、牧師と聞くと、なにやら神聖な感じがしてきます。たしかによく見ると、青い目、カールしたブラウンヘアー、胸元から溢れる胸毛、どれも厳かな雰囲気を醸し出しています。
牧師さんから英語を習っていると分かると、自分が好青年になった気がしてきました。僕が牧師という単語に食い付いていることに気付いたのか、トム先生はこんな事を聞いてきました。
「君は海が割れる話を知っているか?」
知ってますよ。モーゼの話ですよね。さすがの僕もそれくらいは知ってますよ。
「海が割れるなんて事が本当に起きると思うか?」
うん??
「物理的にそんな事が起きるか?」
いやいや。それは考えないお約束ですよ。と言うか、あなた牧師さんですよね。
「私は海が割れたなんて信じられない。」
ダメダメダメ!それ牧師さんが絶対言っちゃいけない言葉!思ってもいいけど言葉にしちゃいけない事ってありますよね!
「ところで、動物を乗せた船の話を知っているか?」
知ってるよ知ってるよ。ノアの箱舟でしょ。まさかこれも、、、
「沢山の動物を乗せる舟を当時の技術で作れると思うか?」
いやいやいや。考えちゃダメなんだって。考えるんじゃ無い、信じるんだよ牧師さんは。
「私は当時にそんな技術があったとは思えない。」
やめてーーー!!これ以上牧師さんのイメージを壊さないで。
勢いにのったトム先生の話は止まらず、信仰心の無さだけでなく、牧師さんの裏話を散々聞かされることに。結婚式でアーメンしている牧師さんはみんなアルバイトだとか、1時間研修を受けると牧師さんになれるとか。
結婚式の牧師さんになるために必要なのは信仰心ではなく研修のようです。僕も明日から牧師さんになれる気がします。
この日以降、僕は結婚式を純粋な気持ちで楽しめなくなってしまいました。チャペルで牧師さんの話を聞いても僕の目の前に広がるのは、割れない海とノアの泥舟です。もう幸福感には浸れません。
最近になってトム先生は僕にこう言いました。
「君の娘の結婚式で私が牧師をやってあげよう。」
あなたには頼みません!!!
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